海の星座

光を射す言葉を。

全ては「きみしだい」 -NICO Touches the Walls "マシ・マシ"-

リリースが発表された時、まさかと思った。ラーメン好きはわかるけど、とうとうそれをシングルに冠してしまったのかと。実際にその音を耳にするまで、彼らの真意を測りかねていた。

11月30日にリリースになったシングルの表題曲である「マシ・マシ」は体を揺らしたくなるファンキーなリズムとサウンドに、Vo.光村の力強い歌声が乗るというシンプルな構成ながら、ゴスペルのようなコーラスと清々しいホーンが迫力を添えて、かなり聴きごたえのある1曲となっている。

 

あとはきみしだいです あとはきみしだい

きっと理想 願いを叶えるも 黙って明日を迎えるも あとはきみしだい

サビで「あとはきみしだいです」と繰り返されるこの曲は、NICO Touches the Walls流の応援歌だ。文字で見れば、投げやりで突き放すようにも聞こえるその言葉も、NICOの手にかかれば、光村の歌声に乗れば、背中を押す一言に変わる。

とあるライヴで光村は、「マシ、ってマイナスな言葉じゃないと思うんです。ちょっとマシってそれが積み重なっていけば、良くなっていくでしょう?そんな『ちょっとマシ』を『増し』ていけたら、と思ってこのタイトルをつけました。」と語った。誰だって他人の言葉に一喜一憂して、自己評価さえも左右される。だがそれも自分の考え方一つで喜にも憂にもなる。自分次第で日々はより「マシ」になっていくし、その先にはきっと、理想を叶える自分がいる。「自分次第だ」なんて当たり前のことを歌っているようだが、実際にそれを意識していようと思っても意外と難しいものだ。自分次第だよ、と言ってくれる第三者が、時に必要になる。

押し付けるのではなく、ただ背中を軽く叩いてくれる存在。NICO Touches the Wallsというバンドが持つそんな距離感からこそできた1曲だ。

 

カップリングに収録されている「MOROHA IROHA」はビッグ・ビートをベースに置いた、「マシ・マシ」よりもさらに踊れる1曲だ。光村の音楽ファンとしての「今こういう音楽が聴きたい」という欲に基づいて作られたこの曲は、メンバーによる『やっていて気持ち良い、何回やっても楽しい』かどうかという物差しの上で完成されていったという。

何かに対する怒りというよりは漠然としたイライラのような、皮肉のような言葉がタイトに収まっている歌詞だが、その言葉のハマり方、さらに語感の気持ちよさは光村節が光っているとしか言いようがない。鈍器で殴るような重さではなく、細い針でピンポイントに深く刺すような鋭さがある。これもまた、「やっていて気持ち良い」にカウントされた部分であっただろう。

そして今や定番となったカバーシリーズだが、今回彼らが選んだのはUAの「太陽手に月は心の両手に」だ。ジャジーで優雅なベルベットを逆撫でするようなざらつきを内包するこの1曲を、NICOは見事に踊れる、ファンキーなロックへと作り変えた。このアレンジにしても、「マシ・マシ」、「MOROHA IROHA」にしても、今回のシングルにはNICOの『自分がどういう音を聴きたいか、リスナーとしてどういう歌を歌われたいのか』という現在の命題に対する答えが詰め込まれているように感じられる。また、それは先にも記した『やっていて気持ち良い、何回やっても楽しい』という物差しにもつながっているはずだ。

 

NICO Touches the Wallsが今回世に送り出したものは、昨今の高速四つ打ちブームには逆行する形になる。しかし、四つ打ちはやらない、という暗黙のルールをかつて持っていた彼らにとって、そんな時代の流れに抵抗することは決して難しいことではない。それよりも、「こんなのもあるよ」とリスナーに提示し続けていくその姿勢は、ロックバンドとしてのある種の正しい姿のようにも思われる。

こんなのもあるよ、とNICO Touches the Wallsの差し出すものを受け取ってみるのか、騒げないからと撥ね付けるのか、「あとはきみしだい」だ。