海の星座

光を射す言葉を。

濃い青のその下で -16/7/23 Talking Rock! Fes. 2016-

7月23日、関西国際空港のまだ南、泉大津フェニックスで開催されたTalking Rock! Fes. 2016。

例年、大阪市内のライヴハウスで催されてきたこちらのフェスだが、今年はTalking Rock!の刊行20周年ということも重なり、とうとう野外での開催となった。編集長・吉川氏にとっては、念願の、であったと想像する。

 

出演者は以下の通り(順不同)。

エレファントカシマシ
クリープハイプ
ACIDMAN
androp
ASIAN KUNG-FU GENERATION
THE BACK HORN
Base Ball Bear
THE BAWDIES
KANA-BOON
THE ORAL CIGARETTES
雨のパレード
サイダーガール
シナリオアート
Awesome City Club
Brian the Sun
GOOD ON THE REEL
LAMP IN TERREN
My Hair is Bad
SUPER BEAVER

 

総勢19組を2ステージに振り分け、尚且つかぶりなしで見られるという太っ腹なスケジューリング。オーディエンスを熱狂させ、焚き付けていくようなバンドもあれば、爽やかな夏空と風を味方につけて暑さを忘れさせるようなアクトもある。夏らしく青色の濃い空の下、19組の色とりどりの音が溢れた。

11時の開幕とともに緩やかに、爽やかに奏でたBase Ball Bearから、とっぷりと日の暮れたなかでじわりと心を震わせる音と言葉を届けたASIAN KUNG-FU GENERATIONまで、広い泉大津フェニックスに集ったオーディエンスは息つく間もなく音に酔いしれ、身を委ねていた。

時に前方のスタンディングスペースで、時に後方のシートスペースで、さらにはゆったりと畳ブースで微睡みながら、その場に満ちる音楽を味わう。熱っぽくありながらも、広すぎず多すぎないアットホームなこのフェスは、この先関西を代表するフェスとなるだろう。そしてそうあってほしいと、いち音楽ファンとして願うのだ。

 

来年からもぜひ野外で…、吉川さん、いかがでしょうか?

盟友との夜に -16/5/20 アイロニカルナイト-

去る5月20日、渋谷TSUTAYA O-Crestを訪れた。九州発の4人組バンド、the irony主催のイベント「アイロニカルナイト」を見るためだった。

14回目というこの日はBOYS END SWING GIRL、ユビキタス、アンテナ、waybeeを迎えての開催。アイロニカルナイトと、waybeeのリリースツアーの合同企画であった。

 

トップバッターはBOYS END SWING GIRL。千葉県出身の4人組だ。

1音目から驚くほどクリアで綺麗なメロディー。圧倒されている間にVo.冨塚のボーイソプラノが空気を割る。この4人の晴れやかな表情と、透明感は若さゆえの単純なものか、たまたま瑞々しさを放つ4人が集まったというシンプルな奇跡か。

ロックバンドの王道をゆく姿は「普通」と表現されてきたという。しかしそんな「普通」を極められるバンドはどれだけあるだろうか。活動休止を経て、復活後最初のツアー中ということで、4人が鳴らす音は、それを4人で鳴らす意味をじっくりと噛み締めているように聞こえた。

《フォーエバーヤング/僕たちはまだ終わっちゃいないだろう/未来なんて将来なんて僕たちには意味がない》

眩しいイマを重ねる彼らの「未来」に期待が高まる。

 

続いて大阪のユビキタス

めきめきと力をつけ、伸ばして、実力も人気もじわじわと上昇中のスリーピースだ。2年前はBOYS END SWING GIRLのような、まっすぐ貫くようなバンドだったが、今やそのイメージもそのまま持ちながら、心を揺らす、人に響く深みを持つようになった。届けるだけでなく、届けて響かせる。響かせたその揺らぎを伝播させる。とても力強く、たくましいバンド。

この日はそんな彼らの様子がいまひとつだった。3ヶ月前よりも確かに進化している。Vo.ヤスキの声は強く、まっすぐによく通り、Ba.ニケの音も温かみだけでなく鋭さを備えて攻める。Dr.ヒロキの刻むリズムも、その音も、深みを増して曲に幅をもたせている。にもかかわらず、バラバラに聞こえた。3人の音が、散らばって聞こえた。彼らの三角形が作る音は、いつも結束しあってステージ全体から鳴り響いているのに、だ。

ステージに立つ彼らは楽しげだった。少し力んでしまっていただけ、もしくは筆者の勘違い、そうであってほしい。

 

3バンド目は仙台からアンテナ。どこか懐かしいサウンドとVo.渡辺の優しいハスキーボイスが心地よい。この表現だけでは彼らの音がまるでフォークやカントリーのように感じられるかもしれないが、実際は歌謡的な要素を持ったロックだ。螺旋階段のようにループするレスポールのリフ、小気味よく刻まれるハイハット、音の底で揺らめくベースライン、そしてそこに乗る、ほんのりと危うげな儚さをまとったハイトーンボイス。4人の音が絶妙にバランスよく重なり合ってステージから降る。

「アンテナのライヴは録音、写真撮影フリーにしてます!皆さんここぞとばかりに撮ってSNSにあげてくださいねー」と開口一番に渡辺が言う。残念ながら文化としてライヴ中に撮影をするのはタブーとされているのでカメラが上がる数は少なかったが、穏やかな笑顔とともにのぞかせる控えめなハングリー精神、好印象である。

 

トリ前にはこの日からリミテッドシングル "RADIO STAR" を販売開始したwaybee。

ダンスミュージックの色を感じられる、自然と体が揺れるような気持ちのいいサウンドを鳴らす。Vo. 藤村の純粋でポップな歌声はそんなサウンドと相まって、ストレートに心に刻まれていく。

ゆらりゆらり、音に踊る心に合わせて身体を揺らす。曲を知っていようが知っていまいが、バンドを知っていようがいまいが、そんなことは関係ない。音に合わせて音を楽しむという、シンプルな音楽との向き合い方を提示し、思い出させてくれるwaybeeのステージ。気づいたら顔がほころんでいた。

 

そしてアイロニカルナイトのホスト、the ironyの登場。

今日の主役は俺たちだと言わんばかりの気迫と、ステージをここまで繋いできた盟友達に対する感謝とで、Vo. アキトはギラギラと目を輝かせながら、キラキラと笑う。ライヴでは定番の曲たちを相次いで投下、フロアはこの日一番の盛り上がりを見せる。

しかし彼らが一番その世界を作り上げたのは "Hallelujah" だった。4人ともが九州出身、熊本・大分の出身も二人いる。群発地震から約1ヶ月、片時も故郷のことは忘れられなかっただろう。すぐにでも飛んで帰りたかったことだろう。そんな気持ちを、壊れてしまいそうな心を、ぽつりぽつりと言葉にし、その上で、叫ぶように歌われたこの曲は、フロアに青い炎のように静かに、熱く広がった。

6月には待望の2nd album "10億ミリのディスタンス" がリリースされる。この10億ミリ、九州から東京までの距離を表しているのだそう。彼らが少しずつ少しずつ紡いできた言葉、重ねてきた想いはじわりじわりと、しかし確実に広がっている。11月の渋谷WWWでのワンマンを発表したその瞬間、悲鳴にも似た歓声が爆発した。まだまだここから、彼らはさらに花開くだろう。

 

妙にすっきりした気持ちで渋谷の街を後にする。次はこのバンドを見に行こう、この音源を買いに行こう。たくさんの音にたゆたって満たされたそばから、ハングリーにそんなことを思ってわくわくしながら。

新しくてNICOらしい -勇気も愛もないなんて-

勇気も愛もないなんて。

彼らがそんな、勇気と愛なんていうストレートな言葉を掲げるとは想像もしなかった。2016年1月8日、キャリア3度目となる日本武道館のステージにおいて、ニューアルバムのリリースを発表した時、やっと!というリリースの喜びとともに、そのタイトルの意外さに一瞬キョトンとしてしまった。「英語だと思う人!」「日本語だと思う人!」とステージではVo.光村が嬉しそうにアンケートをとっていた。ああ、きっとNICOにとっても、アルバムでは初めての日本語タイトル、きっと予想外で、でもこれしかなくて、意外だなあなんて言ってたんだろうなと、ふと思う。

 

NICO Touches the Walls、約3年ぶりとなる6枚目のフルアルバムは「勇気も愛もないなんて」と名付けられていた。NICO Touches the Wallsの等身大が詰め込まれたこのアルバムについて、今更ながらレヴューを書いていきたい。

 

再生ボタンを押すと同時に溢れ出てくる光村の声、声、声。なんとイントロだけで8人、曲中最大で30人の光村が歌っているという「フィロローグ」。喉から血を出さんばかりに重ねて歌う最初の言葉は《楽しいから歌ってるのかな 歌ってるから楽しいのかな》である。彼の心にある、嘘偽りない本音。歌詞のどこを切り取っても、シンガーとしての飾らない、ヒリヒリと痛むような言葉たちが、葛藤が溢れている。こんな風に曲中で彼が赤裸々に言葉を綴るのも、今までの作品の中にはなかった。1曲目からすでに、NICO Touches the Wallsの新章は始まっていた。NICOからファンに向けたラブソングは、4人の見事なコーラスワークで始まるエーキューライセンス(M.04)。モータースポーツの国内A級ライセンスの「A級」と「永久」をかけたタイトル通り、「免許は持っていないけれど、歌詞の中では運転できちゃうんですよ。」と可愛いガールフレンドとのドライブを歌う。《何も心配しないでね 君にとって唯一無二の A級でいたいだけ》こんなにシンプルで、胸のときめく言葉を余裕たっぷりに歌うバンドだったかしらと思う人は少なくないだろう。ニューオーリンズジャズをNICO流にアレンジした、遊び心たっぷりのブギウギルティ(M.05)では光村の大寝坊を主とした数々のgiltを歌い、武道館公演の際に「まだこれを入れようかな、と思っているところです」とアレンジすら入れていなかった中、弾き語りで披露されたウソツキ(M.07)も、その時の空気を残したアコースティックアレンジで収録されている。余談ではあるが、このウソツキと続くTOKYO Dreamer(M.08/2014)は光村が高校時代に書いた曲だという。当時ここまでの歌詞、曲を書くことにしても、それを今改めて引っ張り出してくることにしても、光村龍哉、おそるべきソングライターだ。アルバムの最後にはタイトル曲、勇気も愛もないなんて。失恋ソングでありながらそれだけに聴こえないのはなぜだろう。「勇気も愛もないなんて」に続く言葉、光村は、古村、坂倉、対馬は何を入れるのだろうか。

ここまでは今作に収録の新曲について簡単に紹介したが、3年ものブランクがあると全11曲の半分をシングル曲が占めている。避けるつもりも必要もないだろうが、避けては通れないのだ。ニワカ雨ニモ負ケズ(M.10/2013)など、ああそうだまだアルバムに入ってなかったんだ!と驚いてしまう。だがそのどれもがAlbum Mixということで、「今の」彼ら好みのサウンドにミックスチェンジがなされていて、慣れ親しんだ曲たちでありながら耳に新しく、見事にアルバムを彩っている。天地ガエシ(M.02/2014)はメンバーに「これがあっての今作」と言わしめ、ローハイド(M.06/2014)に対して彼らは「このアルバムにおけるNICO Touches the Wallsの決意表明になる曲。この曲からNICOのモードが変わった。」という。ひりつく若さや青さ、焦燥感や抑制された感情の数々…… NICO Touches the Wallsがこれまで書き、歌ってきたものは、今もその根底に流れているし、彼らの魅力の一つであることに変わりないが、その表現の仕方が、見せ方が変わった。飾らない言葉を、素直な音を連ねていくことで、彼らは進化と深化を重ねる。今まで描いてきたものを壊すのでも消すのでもなく、今の彼らの表現方法で作品に落とし込んでいくのだ。メンバー全員がNICOで始まった20代を終え、NICOと共に30歳を迎えた今、新しいNICO Touches the Wallsを描こうとしているのだろう。だが、大人の魅力、という言葉は正しくない。NICO Touches the Wallsが新しいフェイズに乗った、ただそれだけのことなのだ。

 

このアルバムで彼らが投げかけるのは、「勇気と愛ってなんなんだ」というシンプルな疑問だ。答えなんて出ないかもしれない。《わからない から 考える》(M.01:フィロローグ)のだ。わからない、が答えでもいい。アルバムを引っさげて回る全国ツアー、毎年恒例の対バンツアー、そしてその先にある、リベンジと念願の大阪城ホール公演。そこで彼らはその答えを、ヒントを、少しずつ集めていくのかもしれない。いや、たとえ一つも答えが見えなくたって、それならそれでと笑って、彼らはこの先もNICO流に勇気と愛を歌い続けるだろう。

アルバムツアー、対バンツアー、大阪城ホールについては、また後日どこかで。

お初にお目にかかります

新しくはてなブログを始めました。

音楽ライターを目指しながら、つらつらと文章を書いています。

今までは私情込みの感想文も、読んでもらうことを目的としたレポートも、まとめて同じところに垂れ流していましたが、これからはきっぱり分けていこうと思っております。

感想文はTumblrSweet Dreams に。

今までのAmebaブログ: The End of the Eden は私の原点でもあるので、以前のまま残しておくつもりでいます。拙い文章の数々ですが、もし興味を持ってくださった方がいれば、読んでいただけたらとても嬉しいです。

 

さて、このブログ。

URLに使っている "luminote" というのは造語で、「光」という連結語の lumino と、「音、音符」の note を組み合わせたものです。音楽が持つ光を言葉で表現していきたいという思いを込めました。

「海の星座」は、ブログのタイトルに悩んでいた時に父がくれた言葉です。夜の海に輝く夜光虫の放つ光を例えた言葉ですが、その美しく幻想的な、非現実的な光景は、私が音楽の中に見出すものと近いように思え、そのままタイトルにしました。私を魅了してやまない光(=音楽)を、新鮮に、色鮮やかに言葉で描き出したいという願いを込めています。

光と音が、私にとってのテーマなのです。

 

更新ペースはゆっくりかとは思いますが、どうかTumblr共々、よろしくお願い致します。