海の星座

光を射す言葉を。

最小単位の武装 -16/8/6 cross road vol.4, 16/9/1 AVERAGE HITTER-

ギター1本での弾き語りはヴォーカリストが「シンガー」として勝負に出る場だと考えている。シンガーとしての力量をさらけ出す場だと。それを得意とするボーカリストも、不得手とするヴォーカリストもいるだろう。そしてそれは、当然ながら、どちらが優れているという問題でもない。

ユビキタスのヴォーカリストであるヤスキは、弾き語りにおいてもとてつもない引力と魅力を発揮する。彼はまさに真性のシンガーだった。

先月の6日、大阪・江坂pine farmというライヴバーでcross roadというイベントを見てきた。このライヴバー、楽屋があるでもなく、同じ空間の中に聴き手と演者が居合わせ、談笑しているような、とてもアットホームなこじんまりとした空間だ。音楽だけでなく、お酒だけでなく、その場にある全てを味わい、楽しむような。

この日、ヤスキの声は絶好調だった。ハリのある声が空気を割り、その場の雰囲気を一変させる。言葉にせずとも「聞いてくれ」と主張する強い声。その力強さはマッシヴなだけではなく、曲に合わせて自由自在にその形を変え、時に刺すように響き、時に柔らかく寄り添うように流れる。ここ2年、弾き語りのステージを繰り返していくうちに、彼はシンガーとして明らかに成長し、ヴォーカリストとしての幅を広げた。それはこの日披露した2曲のカバー、椎名林檎の「ギブス」、中島みゆきの「糸」からも窺い知ることができる。女性目線の歌詞、女性ボーカルの歌でも、彼は自分の声で美しく表現しきってしまうのだ。自身のバンドの曲を歌う時よりもキラキラと目を輝かせ、生き生きと歌い上げる姿は、歌うことがただただ大好きだと言っているようだ。

さらに今月1日にも彼の弾き語りのステージを見た。この日はカバーこそなかったものの、ユビキタスの楽曲から懐かしい1曲を持ってきたり、MVが公開されたばかりの新曲を早速アコースティックアレンジにしてみたりと、5曲の中でかなり自由に構成していた。5曲を通して、歌詞の一言一言を大事に慈しむように、じっくりと聴かせるように歌っていたのが印象的だった。

ギターが大好き、バンドが大好き、と公言している彼だが、あえて私は、彼が生粋のシンガーだと言い切りたい。もちろん彼の良さはギターにもあるし、バンドの中にいても輝いている。だが、ステージにひとりで立つ誠実で清廉なシンガーの姿は、その声は、眩しいほどに鮮烈で、その時の彼が纏う、歌に対する素直さや純粋さに、見る者は当てられてしまう。ギターと自分の声という最小単位の武装でステージに立った時、彼は無敵になるのだ。