海の星座

光を射す言葉を。

今という一瞬を生きること -17/10/21 ココロオークション 3rd mini Album Release TOUR 2017 『夏の終わりを探しに行こう』-

10月21日、大雨。ココロオークションのホーム、大阪でのワンマンライヴが梅田TRADで開催された。8月にリリースされた3rdミニアルバム、「夏の夜の夢」を提げたツアー、「夏の終わりを探しに行こう」のセミファイナルである。秋の雨に見舞われた当日だったが、それもまた、ココロオークションらしいと言えば、らしいだろう。自他共に認める雨男の粟子(Vo./Gt.)も、ライヴの冒頭で「2017年、10月、21日。…雨」といつも通りに日付と天気を発した時、少しホッとしたように、くすりと笑っていた。憂いと寂しさを含んだような、少し重さのある雨音は、ココロオークションの音にとてもよく合う。

 

そんな天気に合わせるかのように、ライヴは「雨音」で幕を開けた。夏が過ぎて久しい10月下旬、冬の足音すら聞こえてきそうなほど寒い1日ながら、彼らの音は一瞬にして時間を巻き戻し、夏の空気の中へフロアを連れて行く。「雨音」をはじめとした、「群青」、「Orange」、「線香花火」といった、しっとりしたバラードを軸にしながら、「シャバ・アーサナ」、「スパイダー」のような、鋭く切り込んでくる、エッジの効いたロックチューンや、「ヘッドフォントリガー」、「星座線」、「フライサイト」というココロオークションを代表するアップテンポなギターロックを混ぜることで、ココロオークションの持つ音色の豊かさ、音楽性の幅広さを見せつける。ワンマンという舞台だからこそ、その幅も丁寧に描き切ることができる。また、オーディエンスは、ココロオークションのためだけのステージを目にし、音に触れることで、その彩り豊かな楽曲の中に彼らが音楽を通して伝えんとする想いが一貫して込められていることにも気づくのだ。

それは、「終わりがあるからこそ今を大切にできる」ということ。「今のこの瞬間を生きる」ということ。
彼らは別れや終わりに対してひどく過敏でありながら、同時にとても現実的でもある。MCの中で、粟子は「僕らはいつかいなくなるし、今日のこともいつかは忘れてしまいます。でも今日のこの時間は、僕らが重ね合わせたこの時間は嘘じゃない。事実として残り続けます。」と語った。フロントマンのMCとしてはいささか残酷かもしれない。ずっと続けていくからとか、一生忘れませんとか、その時は確かにそう感じていて、自分の中にあるその感情に確信を抱いてはいるのだが、いつしか嘘になる可能性を孕んでいる。「ずっと」も「一生」も、確約されるものではない。その上で、それでもそこにその時間があったという事実だけは、たとえ誰も覚えている人がいなくなったとしても、確かに残るのだという、ある種の救い。粟子はファンに対してその救いを示しながら、終わりが来ることを知っているからこそ、今をより大事にできるんだと、魔法を唱えるように繰り返す。だから二度とない今日の、今という一瞬を抱きしめていよう、と。彼はきっと、終わりの切なさを、別れの寂しさを人一倍強く感じてしまうのだ。自分にもまじないをかけるかのように、「今を抱きしめて」と繰り返す彼が一番、いつかいなくなってしまうことを、いつか忘れてしまうことを寂しく思っているのかもしれない。

「今」を大事にしたいと願うのは、決して粟子だけではない。このココロオークションというバンドそのものの歩み自体にも関係するだろう。大野(Ba.)も語った通り、ココロオークションの歩みは、昨今のメジャー第一線に並ぶバンドの顔ぶれとその歩みを考えるに、とびきり早く、順調だったとは言えない。大野は「こっちは自転車でちょっとずつ走ってんのに、横をスポーツカーでびゅーん!って走り去っていくみたいなのもいっぱいあった」と表現した。しかし彼らは決してそれを悲観したり卑下したりしているわけではない。自分たちはスポーツカーに乗るよりも、自転車を漕いでいる方があっていると思ってさえいそうだ。ゆっくりと自転車をこぐスピードに合わせて、自分たちと一緒に進んでくれるファンが何よりもの誇りだと、やわらかく、少し照れ臭そうに、大野は微笑んだ。スポーツカーで走り去ったのではわからないであろう雨の冷たさを、道端の花の可憐さを、移ろう季節の匂いを、流れる雲の速さを、ココロオークションは肌身で知っている。それは、これから先爆発的に売れようが売れまいが、彼らを彼らたらしめる強さとなるだろう。今という瞬間を生きること、その日が最後だというつもりでライヴをすること。切迫感すら感じられるその信念は、より彼らの音を研ぎ澄ませていく。

 

アンコールで、年明けからすぐに、好評のアコースティック企画「CCR UNPLUGGED」でツアーに出ることを発表した。発売当日に大阪公演は完売、ファンの期待度の高さが伺える。粟子が言う通り、いつかいなくなってしまうのだとしても、まだまだココロオークションは続いていくのだ。今日で最後だという思いで抱きしめた1日1日を重ねながら。