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海の星座

光を射す言葉を。

感情の解放 -ユビキタス "ジレンマとカタルシス"-

現在、LIVE TOUR 2016-2017『カルテット』と銘打ったツアーを敢行中のユビキタスから、4枚目のミニアルバム「ジレンマとカタルシス」が届いた。前作から約2ヶ月での発表となる今作は昨年11月にリリースされたミニアルバム、「孤独な夜とシンフォニー」の連作であり、対になる作品だという。ジャケットもまさにその通り、同じ構図でありながら、前作が夜を描いたものであったのに対し、今作は真昼の太陽が主人公の頭上に輝いている。

 

今作は全7曲を通して、かなり解放的な音作りが成されている。これまでの作品には必ず入っていたミドルテンポやバラードの曲がなく、1枚の中で緩急をつけるというよりは、クレッシェンド的にこのアルバムとしてのクライマックスに向かっていくようなものに仕上がっている。また、イントロから思わずクラップしたくなってしまう、ファンキーな「10」(M.03)や、T.Rexの「Get it on」を彷彿とさせるようなベースラインが光る「R」(M.06)のように、彼らの音楽性の幅広さを、これまでよりもごく自然に馴染んだ形で見せているし、それはこのバンドそのものがそれだけ大きな器を持つようになったことを示していると言えるだろう。

歌詞という面から見ても、《日々塗り替えてく/人生全て楽しむ/準備はできたか?》(M.03: 10)や《息を吸って 深く吐いて/明日からなんか上手くいきそうだよ/毎日思ってる》 (M.06: R)からも明らかなように、前作のみならず、今までの作品を全て超越するほどのポジティヴさを花開かせている。さらにほとんどの曲に「未来」「明日」という言葉がちりばめられ、サウンドとも相まって否応無しにこちらの気持ちも上向きになる。これが今の自分の全てだとヤスキは語る。だとしたら、今の彼はなんと爽快なまでに突き抜けているのか。今までの葛藤も悩みも苦さも全部ひっくるめて昇華し、《悩むのも そろそろ飽きてきた頃だな》(M.07: カタルシス)と、一種の開き直りを見せる。

 

前作では自身を見つめ直し、自身の抱える感情と真正面から向き合っていた。それがそのまま落とし込まれたアルバムであったために、それは内へ内へと潜り込んでいくような空気をまとっていた。しかし、今作はそれを経た上で今の自身の感情を素直に言語化した作品となっていて、逆に、外へ外へと思考や行動を広げていくイメージを備えている。この「ジレンマとカタルシス」は前作「孤独な夜とシンフォニー」に対する彼らなりの返答であるように思われる。

そして同時に、「ジレンマ」(M.01)から「カタルシス」(M.07)までの間でも、葛藤から解放へと向かう感情のグラデーションが明るいタッチで描かれている。しかしその明るさは、ポジティヴさは、聴く者の感情を置いてけぼりにはしない。いつも通り、彼らの音や言葉は、共感や賛同を求めるのではなく、そっと寄り添うように優しく響く。その優しさが胸にしみるのは、歌詞の端々に見られる鋭い言葉が心に刺さるのは、あくまで彼らが等身大で音を鳴らし、歌ってくれるからだろう。どれだけバンドのモードが変わり、作詞者であるヤスキのモードが変わろうとも、そのナチュラルさが変わらないのは今後も彼らにとって武器となるはずだ。

 

「ジレンマとカタルシス」を「葛藤と解放」とヤスキは訳す。しかし「カタルシス」は「精神の浄化」という意味を根底に持っている。抑圧された感情を、自身の中に鬱積する混沌とした葛藤を浄化して、その後に残ったものがこのアルバム「ジレンマとカタルシス」なのではないだろうか。このアルバムを作り上げたことで、本当に歌っていきたいことを、鳴らしたい音を見た今の彼らは、これまでで一番強く、輝いている。