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海の星座

光を射す言葉を。

孤独な夜の向こう側 -ユビキタス "孤独な夜とシンフォニー" -

11月2日、ユビキタスの3rd mini album「孤独な夜とシンフォニー」がリリースとなった。

先日のライヴレポート中でもすこし触れたが、今作のタイトルにある「孤独な夜」は決してマイナスなイメージではなく、自分自身と向き合う時間のことを指しているのだという。そして「シンフォニー」は様々な要素によって一つのものが成り立つ、という意味から、周りの評価や見方、周囲の環境という要素、そしてそれによって作られる自分自身を指す。昨年リリースした「記憶の中と三秒の選択」が、自分の周りの人や環境という特定の対象を持った外に向けたものだったのに対して、このアルバムは、黒田保輝という一人の表現者が、自分の内側にある葛藤や、こうありたいという理想と周りからのイメージの間でもがく自身に光を当てて描いたものだと言えるだろう。

 

1曲目から爽やかなギターロックが鼓膜を揺らす。リード曲として、壮大なMVも夏から先行して公開されていたイナズマだ。この詞に関してVo./Gt. ヤスキは「久しぶりに、自然に書けたラブソング」だと語った。何か新しい世界に触れた時のビリビリした感覚、心がギュッとなる感覚を「イナズマ」と名付けてこの曲に冠したと言うが、その「イナズマ」は何も、異性間・同性間の一対一の関係性における恋を指すわけではないのだと思う。例えば私がユビキタスに、本当の意味で出会ったあの日のあの瞬間は確かに「雷に打たれた」ようだったし、そこから今日までの2年半に及ぶこの想いはユビキタスというバンドに対する恋だと言っても過言ではないだろう。人生を揺るがすような、自分の中にある価値観を揺さぶられるような、そんな出会いはそうそうあるものではない。この曲は、何かそういうものに出会った時の、その最初のインパクトを新鮮なまま閉じ込めた1曲だ。

自身の葛藤を赤裸々に綴り、吐き出しているのは感情性理論(M.02)だ。《これも僕じゃないから/もういらないもういらない》という歌い出しにハッと息を飲む。ヤスキが綴る激情的な言葉は、普段の彼が、言葉にすることで思考がまとまっていく様を見せる人間であるからこそ痛烈に響く。しかしそんな彼の葛藤も曲の終盤へ向かいながら、次第に解かれていく。最後のブロックでは歌詞に合わせて歌い方もサウンドも開けたものへと変化している。歌う、というよりは心の内を殴り書きのようにして吐き出していくものに仕上がっているサカナ(M.03)は、自分自身に対する焦燥を描いている点では感情性理論とリンクしているが、その言葉の向かう先は外の視点に対してや、外とつながっている自分ではなく、常に自身の内側だ。エッジの効いたサウンドの中で、イントロのギターリフが乾いた鋭さを見せるが、それ以上にニケの鈍く重いベースラインが光る。決して派手ではないし、前面に出てくるわけでもない。しかし不穏な空気が曲全体に響くのは間違いなくこのベースラインによるものだ。ディスコード(奇跡に触れる2つの約束: M.06/2014)でもそうだったように、ユビキタスのハードチューンにおいて、普段の柔和な彼からは想像もできないほどの攻めに攻めたベースはいいスパイスとなって曲にメリハリをつけている。

そして次の眠れない夜に(M.04)では全てががらりと表情を変える。ヤスキの爪弾く優しいアコースティックギターの音色と、彼のごく近くで歌うような優しい歌声に張り詰めた緊張感がふっ、とゆるむ。ギターのボディをたたく柔らかい音も含め、この曲は彼の一人舞台だ。この1年ほど、弾き語りに精力的に取り組んできた彼の一つの成果だと言えるだろう。前にも述べたが、シンガーとして、ヴォーカリストとして、彼は凄まじい成長を遂げている。バンドをいつも尊重してきた彼がこういった形で1曲収録したというところに彼の自信を垣間見て、これからのバンドの姿に期待を寄せたくなるのだ。

そんな眠れない夜にと対になるのがチャンネル(M.05)だ。一度は誰もが思ったことがあるはずの、綺麗事ではない人間らしさ、哀しさを歌う。ニケの優しくゆるやかなベースラインも、彩るという言葉の似合うヒロキのドラミングも、一定の温度と距離を保ちながらヤスキの声を支え、その透明感のある声と微かにかけられたビブラートがぐっと際立つ。3人のバランスがきれいに保たれるのがユビキタスのスリーピースバンドとしての強みだとするならば、この曲はそれを最大限に引き出して形にしたものだと言える。

《思い出しているよ/楽しかった日々を/過去には行けないの/あの日の景色は日に日に色づく》と過去を歌うことで未来を見るS.O.S(M.06)と、《どの未来も真実だと/僕にとって真実だと/思えたから》と一つのカタルシスを見せるハッピーエンド(M.07)の2曲はこのアルバムにおける終着点とも言えるだろう。どちらも「ユビキタスらしい」ダンスナンバーでありながら、そこに留まることのない歩みが見られる。特にハッピーエンドのきらめくようなタッピングで鳴らされるイントロと、アイリッシュの空気のあるギターソロはこれまでの彼らにはなかった音であり、それでいながら全く違和感なく馴染んでいる。「らしさ」と正面から向き合ったヤスキは、まだ答えを見出すに至っていないとしても、それを飲み込んだ上でのユビキタスというバンドの姿をこちらに見せようとしているように思える。

 

今作「孤独な夜とシンフォニー」は、過去を歌いながら、今を見つめている。今を歌いながら、未来を見据えている。本性を閉じ込めながら、人から見た自分に自分を収めようとし、人から見た自分を感じながら、本当の自分を見せようと躍起になっている。自分と自身を取り巻くものを対比させながら、心の内側を歌う。自分と深く向き合う思考のプロセスを1枚のミニアルバムに仕上げたことで、この作品は彼らにとっての1つのマイルストーンとなったのではないかと思う。

昨年のアルバムを聴いた時、ユビキタスは開花したと思った。それまでよりも明らかに振れ幅を広げ、表現力を増した3人の力は底知れぬものだと感じたのだ。それを裏付けるように、彼らのライヴは輝きを増し、音に込められた意志は伝播していく強さを備えていった。今回の楽曲群は耳に新しい部分も多々あったし、歌詞で見せる精神世界は今までよりも断然に色濃く、深くもあった。しかし、それでも、変わらない芯が通っているのとはまた別に、どこか過去の楽曲を引きずっているようなイメージが拭えなかった。昨年彼らが見せてくれたものも、今の彼らがライヴで見せてくれる光も、決して見間違いなんかじゃないと信じているからこそ、これからの彼らに、さらに期待が募る。

 

今も、いつも、進化の途上。だから格好良いんじゃないか。