海の星座

光を射す言葉を。

三人で魅せる光 -16/11/01 ユビキタス LIVE TOUR 2016 『カルテット』TWO MAN SERIES-

先月めでたく結成4周年を迎えた大阪のユビキタスが、1年ぶりに新譜をリリースするということで、その「カルテット」と銘打ったリリースツアーの前哨戦として、10月27日に東京・渋谷O-Crest、11月1日に大阪・心斎橋Music Club JANUSでのツーマンシリーズを開催した。ここでは、この春メジャーシーンに満を時して躍り出た盟友・ラックライフを迎えた大阪公演での彼らのライヴをレポートする。

 

ユビキタスは地に足のついた、リアリティのあるライヴを見せるという印象があった。そこに鳴る音、響くメロディー、そして紡がれる言葉によって、そこに彼らがいること、それを見るオーディエンスがあることをはっきりと認識させるライヴ、と言えばいいだろうか。これは筆者の意見であるが、きらびやかな夢を見せるのではなく、悩んで立ち止まって迷って、それでも今ここに立っている、君たちに歌っているんだという姿を、隠さずに晒け出してくれる、そんな現実味のあるライヴが彼らの持ち味であり、彼らが人気を集める所以でもあったのではないかと思う。

しかしこの夜、そのイメージは覆された。

 

彼らが1曲目に選んだのは、2nd mini album『奇跡に触れる2つの約束』より、「そ。」。Vo./Gt. ヤスキのはじけるようなカウントでオーディエンスにも一気に火がつく。当時のリリースツアー以来、ほとんどセットリストには組み込まれてこなかったこの曲だが、2年を経て演奏力、表現力共に成長した彼らによって、スターティングナンバーとして返り咲いた。

その後は新譜から「サカナ」「イナズマ」、「チャンネル」といった、これまでのライヴでも披露している楽曲を中心にライヴを展開し、ユビキタスの現在地を示した。その11月2日にリリースとなったミニアルバム『孤独な夜とシンフォニー』は、ヤスキによると「孤独な夜という自分自身と向き合う時間と、自分を作り出す周囲の環境や言葉、評価やイメージといった要素(=シンフォニー)について思いを巡らせた末にできたアルバム」だという。それもあってか、昨年のフルアルバム『記憶の中と三秒の選択』がかなり外側に向かって放たれたものであったのに対して、今作は非常に丁寧に自身の内面と向き合ったような言葉が綴られている。外向きか内向きかということだけで言えば、内向きである今作は「そ。」が収録された『奇跡に触れる2つの約束』と重なる。しかし決定的に違うのは、一度外側に向かって放っているということだ。これまでの作品が、彼ら、あるいはヤスキ個人の一人語りであったのとは異なり、今作では、自分自身に外側から改めて光を当てているのだ。アルバムについてはまた詳しくレヴューを書くので深く掘り下げるのは避けるが、1曲目に「そ。」を選んだのは、あのアルバムの中で、外に向かう力が殊更に強い、今作に通じ得る曲だったからではないだろうか。

演奏中の彼らはといえば、それぞれが個々で集中しながらも互いを意識し合い、さらにその意識はオーディエンスにも常に向けられていた。この音を聞け、この声を聴けと、目で、音で、声で、彼らはこちら側に主張した。それは決して押し付けがましいものではない。そうしたくなる引力を持っていたのだ。「あなたに歌っているんだ」と力強く手を引くように、音を鳴らし、歌を唄っていた。これもまた、以前よりも際立って強くなったところだろう。今までの、「ここで歌っているから、誰か何か引っかかったら、ついてきてよ。」というスタンスは、そこにはなかった。彼らは進化を見せたのだ。外を見た目で自分と向き合ったヤスキは何かを振り切ったような目をして、全てを受け入れるような強さをたぎらせて、自身と向き合った今の言葉を歌いつないだ。そんな彼の言葉を支え、彩りながら、Ba. ニケとDr. ヒロキの音色が重なっていく。プライベートでも仲良しな3人の音は、決して狂うことなく正しく届けられる。口では滅多に褒めないが、お互いを意識するからこそ合う呼吸は、スリーピースバンドとしての真髄に触れる。彼らのその音は、声は、光を伴ってフロアに流れ出した。

自らをさらけ出しながら、飾らず、等身大でステージに立つという彼らの魅力はそのままに、寄り添う優しさを超えた、包み込む大きさで、フロアにいる全員に光を射した。過去と現在を同時に歌いながら、リアリティのある彼らの生の姿を見せながら、その上で音を光に変えて、燦然と降らせたのだ。

 

4th mini album『ジレンマとカタルシス』のリリースも1月に決まり、2枚のアルバムをひっさげた3月までのロングツアーが始まった。ファイナルシリーズに、初の名古屋を含めた東名阪ワンマンも予定されているこのツアーを経て、彼らはますます波に乗っていくことだろう。

ツアー開幕時点ですでに、それまでの姿から圧倒的なまでの成長を遂げている。桜が咲く頃、彼らはどんな光を我々に見せるのだろうか。

 

最後になったが、彼らは今回のツアータイトルを『カルテット』と名付けた。しかしユビキタスはスリーピースバンドだ。4つ目のパートは誰が担うのか。ヒロキのドラムに、ニケのベース、そしてヤスキのギターと声、という4重奏だろうか。はたまた、彼らに手を伸ばすオーディエンスを指すのだろうか。それもきっと、これからのツアーで解き明かされていくだろう。