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海の星座

光を射す言葉を。

新しくてNICOらしい -勇気も愛もないなんて-

勇気も愛もないなんて。

彼らがそんな、勇気と愛なんていうストレートな言葉を掲げるとは想像もしなかった。2016年1月8日、キャリア3度目となる日本武道館のステージにおいて、ニューアルバムのリリースを発表した時、やっと!というリリースの喜びとともに、そのタイトルの意外さに一瞬キョトンとしてしまった。「英語だと思う人!」「日本語だと思う人!」とステージではVo.光村が嬉しそうにアンケートをとっていた。ああ、きっとNICOにとっても、アルバムでは初めての日本語タイトル、きっと予想外で、でもこれしかなくて、意外だなあなんて言ってたんだろうなと、ふと思う。

 

NICO Touches the Walls、約3年ぶりとなる6枚目のフルアルバムは「勇気も愛もないなんて」と名付けられていた。NICO Touches the Wallsの等身大が詰め込まれたこのアルバムについて、今更ながらレヴューを書いていきたい。

 

再生ボタンを押すと同時に溢れ出てくる光村の声、声、声。なんとイントロだけで8人、曲中最大で30人の光村が歌っているという「フィロローグ」。喉から血を出さんばかりに重ねて歌う最初の言葉は《楽しいから歌ってるのかな 歌ってるから楽しいのかな》である。彼の心にある、嘘偽りない本音。歌詞のどこを切り取っても、シンガーとしての飾らない、ヒリヒリと痛むような言葉たちが、葛藤が溢れている。こんな風に曲中で彼が赤裸々に言葉を綴るのも、今までの作品の中にはなかった。1曲目からすでに、NICO Touches the Wallsの新章は始まっていた。NICOからファンに向けたラブソングは、4人の見事なコーラスワークで始まるエーキューライセンス(M.04)。モータースポーツの国内A級ライセンスの「A級」と「永久」をかけたタイトル通り、「免許は持っていないけれど、歌詞の中では運転できちゃうんですよ。」と可愛いガールフレンドとのドライブを歌う。《何も心配しないでね 君にとって唯一無二の A級でいたいだけ》こんなにシンプルで、胸のときめく言葉を余裕たっぷりに歌うバンドだったかしらと思う人は少なくないだろう。ニューオーリンズジャズをNICO流にアレンジした、遊び心たっぷりのブギウギルティ(M.05)では光村の大寝坊を主とした数々のgiltを歌い、武道館公演の際に「まだこれを入れようかな、と思っているところです」とアレンジすら入れていなかった中、弾き語りで披露されたウソツキ(M.07)も、その時の空気を残したアコースティックアレンジで収録されている。余談ではあるが、このウソツキと続くTOKYO Dreamer(M.08/2014)は光村が高校時代に書いた曲だという。当時ここまでの歌詞、曲を書くことにしても、それを今改めて引っ張り出してくることにしても、光村龍哉、おそるべきソングライターだ。アルバムの最後にはタイトル曲、勇気も愛もないなんて。失恋ソングでありながらそれだけに聴こえないのはなぜだろう。「勇気も愛もないなんて」に続く言葉、光村は、古村、坂倉、対馬は何を入れるのだろうか。

ここまでは今作に収録の新曲について簡単に紹介したが、3年ものブランクがあると全11曲の半分をシングル曲が占めている。避けるつもりも必要もないだろうが、避けては通れないのだ。ニワカ雨ニモ負ケズ(M.10/2013)など、ああそうだまだアルバムに入ってなかったんだ!と驚いてしまう。だがそのどれもがAlbum Mixということで、「今の」彼ら好みのサウンドにミックスチェンジがなされていて、慣れ親しんだ曲たちでありながら耳に新しく、見事にアルバムを彩っている。天地ガエシ(M.02/2014)はメンバーに「これがあっての今作」と言わしめ、ローハイド(M.06/2014)に対して彼らは「このアルバムにおけるNICO Touches the Wallsの決意表明になる曲。この曲からNICOのモードが変わった。」という。ひりつく若さや青さ、焦燥感や抑制された感情の数々…… NICO Touches the Wallsがこれまで書き、歌ってきたものは、今もその根底に流れているし、彼らの魅力の一つであることに変わりないが、その表現の仕方が、見せ方が変わった。飾らない言葉を、素直な音を連ねていくことで、彼らは進化と深化を重ねる。今まで描いてきたものを壊すのでも消すのでもなく、今の彼らの表現方法で作品に落とし込んでいくのだ。メンバー全員がNICOで始まった20代を終え、NICOと共に30歳を迎えた今、新しいNICO Touches the Wallsを描こうとしているのだろう。だが、大人の魅力、という言葉は正しくない。NICO Touches the Wallsが新しいフェイズに乗った、ただそれだけのことなのだ。

 

このアルバムで彼らが投げかけるのは、「勇気と愛ってなんなんだ」というシンプルな疑問だ。答えなんて出ないかもしれない。《わからない から 考える》(M.01:フィロローグ)のだ。わからない、が答えでもいい。アルバムを引っさげて回る全国ツアー、毎年恒例の対バンツアー、そしてその先にある、リベンジと念願の大阪城ホール公演。そこで彼らはその答えを、ヒントを、少しずつ集めていくのかもしれない。いや、たとえ一つも答えが見えなくたって、それならそれでと笑って、彼らはこの先もNICO流に勇気と愛を歌い続けるだろう。

アルバムツアー、対バンツアー、大阪城ホールについては、また後日どこかで。